俺さ、みんなの前で「差別だの区別だのごちゃごちゃうるせえ。君だから、それだけでいいだろう」的なことを上から目線で言った。
でもさ、そんな偉そうなこと言っておきながら僕自身が本当にそうしていたのかと聞かれても、はいそうですと肯定することはできない。
僕はずっと逃げてきた。
ずっとずっと僕は僕から逃げてきた。
今だって自分から逃げてるのかもしれない。
だって俺、女になりたいのかまだわかんないもん。
昔は本当に女の子になりたかった。
髪を伸ばしたくて、髪留めに憧れて、スカートが輝いて見えた。高い声が欲しくて、細くて白い肌が羨ましくて、膨らむ胸が憎かった。
そうは言ってもさ、女になる勇気なんかなくって、次第に諦めていった。
いや、諦めたのだということにしていた。
高校に上がるまでの一人称は俺。
俺である限り僕は僕と向き合わなくて済む。
そうやって何度も逃げてきた。
そのツケが回ってきたのは高校1年の時。
初めて好きな人ができて、でも自分はどうしたいのかわからなくなっていて、好きな人に満たされた分だけ苦しくなって、別れを告げられた。
今までの人生の中で1番後悔した。
俺は何やってんだ。
付き合っていながら、結局は俺自身のことしか見えてなかった。
俺という形がどんどん保てなくなっていく中で、その形を無理やりにでも保とうとして大切な人を傷つけた。
馬鹿だよな。
僕は僕なのに、俺なんだって見栄張っちゃったばっかりに大切なものが見えなくなっていた。
逃げることが悪いとは言わない。
でもやっぱり、僕は逃げるべきではなかった。
僕から逃げるべきじゃなかった。
女になりたいのかどうかわかんねえの。
かわいいものは大好きだよ。
髪をピンで留めたいよ。
スカートだって履きたいよ。
でも、僕の感性は長年一緒だった俺なんだ。
今更女性のようには振る舞えないの。
なのに女性のように振る舞いたいの。
笑っちゃうよね。