雨が好きだ。
匂い、音、感触、軌跡、どれをとっても素晴らしい。
不思議と鼻に残る雨の匂いは、あの日を思い出させる。周りの音がかき消され、世界が遠のいていく。そして雨は僕の肌を打ち、真っ黒く染まった心にまで染み渡る。このまま溶け出してしまいたい。降り注ぐ雨に焦がれる。
言っててなんだけど、クサいな。
こいつクセェこと言ってんな。
まあ、いいでしょ。
どうせ独り言なんだからね。
でも、大体の場合雨は背景なんだ。
仕方のないことだと思う。
もちろん雨のその姿が好きではあるが、雨によって呼び起こされる記憶や気持ちが好きでもある。
主観が入れば、背景となる。
だから、仕方のないことなんだ。
とは言っても、僕は悲しいね。
雨ってのは背景にされてしまう上に、大抵嫌われの対象となってしまう。
ほとんどの人は気分が下がると言う。
それもわからなくはない。
色鮮やかで活気に満ちた清々しい晴天を見て気分が上がるように、暗く周囲の色や感情ににまで干渉していく曇天を見て気分が下がるのも、まあわかる。
でもやっぱり僕は悲しいね。
アンダードッグ効果かもしれない。
嫌われてるやつを応援したくなってるだけなのかもしれない。
こいつのいいところは僕だけが知っていて、知らないやつらは可哀想だって優越に浸っているだけなのかもしれない。
それを否定しようとは思わないよ。
ただ雨が背景であるのは、いささか遺憾だね。
それも悲しみの背景であることについて、僕はすごく悲しい。
雨が創る世界は綺麗なんだ。
あまり現実味がない。
すぐそばにいる人の話ですら聞こえづらい。
すぐ目の前にある木の色がわかりづらい。
すぐ近くの飲食店の匂いがしづらい。
雨は独りの世界を創る。
過去でも現在でも未来でも。
けれども、どこへ行っても独りなんだ。
ただこの独りはすごく優しい。
インターネットといういつでも繋がれる世界における満たされることのない孤独。
こんな独りなんかよりずっといい。
現実味がないと実感できるような現実味がある。
そう、雨は世界を創る側なんだよ。
その世界に僕らがいるの。
どちらかと言うと雨が主役で、僕らが脇役じゃない?
その世界の中では確かに僕らが主役だろうけどさ…
でも物語は物語として評価されるべきではあるけど、その物語を創作した作者も評価されるべきなんだよ。
こんな悲しみに溢れた世界を創った神様が崇められるように、優しい孤独を与える雨が崇められたっていいだろ。